東京地方裁判所 昭和29年(ワ)823号・昭28年(ワ)9602号 判決
債権譲渡契約が、通謀虚偽表示であるかどうかについて判断するに、証拠によつて明らかなように、被告布施栄三郎は昭和二十四年十二月以来金融業に従事しており、仲摩から最初に前示債権の取立を委任された弁護士が約一年の間に殆んど実績を挙げ得なかつたことを承知の上で、自ら買つて出て債権の取立を引き受けた事実等を考え合せると次のとおり認められるのである。
すなわち、昭和二十五年十月頃、仲摩は、当時手形割引等による金融を業としていた被告の世話で、原告に対し前示金百万円を貸付けたが、期日に弁済がなかつたので被告の勧めにより、同人を代理人として同年十二月八日原告との間に前示内容の公正証書を作つて貰つた。ところが原告は割賦金の第一回弁済期に元金のうち僅かに二万円を弁済したに止つたので、仲摩はこの債権の取立を弁護士に委任したが、当時原告の資産状態は非常に悪かつたため約一年を経過してもなお実効を挙げることができなかつた。このような状態にあつた昭和二十七年二月頃、被告は仲摩に対しこの債権の取立を引き受けようと申し出で、かつ「これを実現するには債権譲渡を仮装しておいた方が便宜である。そうすれば、自分は貸金業者であるから強硬な手段をとつて数カ月で成果を挙げることができる。」といつたので、仲摩は被告の右意見に従い、少なくとも元金百二十三万円は回収することを目標として、取立に要する負担は一切負わないとの了解の下に、昭和二十七年三月五日被告に対し右債権の取立を委任するとともに、前示の事情から相通謀して仮装の債権譲渡契約書をとりかわし、かつ原告に債権譲渡の通知をした。被告は右委任の趣旨に基き、前示債権取立のため、原告に対し破産の申立或いは強制執行をし、その経過を昭和二十七年三月十七日から昭和二十八年二月二十五日まで五十回に亘り逐一仲摩に報告して来たが、その後は態度を変え、自ら債権者であるとして、仲摩の意向にかかわりなく未払の遅延損害金債権を順次元本債権に組入れて、原告に対し巨額の金員の支払を請求するに至つた。この間昭和二十八年十二月頃原告から示談の申入れがあり、和解による解決を望む仲摩の口添もあつたが、被告は全くこれに取り合おうとしなかつた。ここにおいて仲摩は、昭和二十九年六月一日やむなく被告に対する債権取立の委任契約を解約するとともに、原告との間では七十万円を受領して本件消費貸借契約に関する一切の紛争を解決する旨の和解契約を締結した。
以上のとおり認められるから、結局仲摩と被告との間の債権譲渡契約は相通謀してなされた虚偽表示で無効であり、被告は仲摩と原告との間に昭和二十五年十二月八日成立した本件消費貸借契約による債権を承継しなかつたわけであるとして、原告の異議は理由ありとこれを認容した。